時計に関する随筆シリーズ A

『腕時計の安全対策、Dバックルについての考察』



(我が身は自分で、時計は”Dバックル”で守ること〜)

テロ問題、治安問題というとピンと来ないかもしれないが、ひとたび日本を離れて海外に行くと事情は全く異なってくる。日本人はどこへ行っても「金持ち」であると看做され、格好のカモになるのが現実である。本人が金持ちであるか否かは別問題なのだ。そうした事件・事故から身を守るには自分自身で最新の情報収集を行い、注意を払うしか術はない。

時計についても同様である。

革ベルトの時計であれば、誰しも一度か二度はベルトを上手く締められずに落としそうになった経験はあるだろう。左手に時計をすれば、右手一本でベルトを締めることになり、通常のバックルであるとそのリスクは極めて大きいのだ。因みにバックルのことを尾錠、もしくは美錠と呼ぶこともある(筆者は後者を採用)。英語ではBUCKLE、CLASPとも言う。

(⇒右写真: パネライ用24mm幅の美錠とオメガ用15mm幅の美錠。
        通常タイプでもサイズ次第で迫力と存在感はここまで異なる。)





(Dバックルの種類とその語源について〜)

この危機管理、安全対策としてお勧めなのがFOLDING-CLASPとかDEPLOYMENT-BUCKLE、通称”Dバックル”と呼ばれる専用の押さえ金具である。Dバックルにも大別して3種類ある。
1)シングル式=左の写真(=TISSOT PORTO 1925)のように二つ折り、である。
2)ダブル式=ダブルフォールディングとも言う。いわゆる観音開き型三つ折れタイプ(=右下の写真。POLJOT)。
3)PUSH式ダブルフォールディング=ダブル式だが、プッシュボタンで解除がし易い。利便性は抜群。
  
この他にもカルティエのように革ベルトを折り曲げて装着する独特なシングル式Dバックルやオメガのようにシングル式でもPUSH式かつスライドして延長する優秀タイプもあるが、一般的なタイプは上記3種類である。最近ではようやくネットでも手頃な値段で買えるようになったのは嬉しい限り。

因みにDバックルの発明者はカルティエである、との説が有力だ。しかしカルティエ式のDバックルは小剣側を折りたたむような独特の方式であるので、上記3種類とは少々異なる。それではDバックルの発明は一体、何時の時代のことであるのか目下『研究中』であるが、現在主流の上記3タイプのDバックルが市場で幅を利かせ始めたのは80年代から90年代にかけて。それ以前は通常の穴止め式の通常の美錠が殆どであったと考えている。
Dバックルの語源についても整理しよう。
上述した通り、英語ではDEPLOYMENT(ディプロイメント)というが、仏語ではDÉPLOYANT(ディプロヤント、ディプロワイアント)と言う。
時計業界が仏語主流であることを考えると、仏語が語源であり、それに似た英語が用いられたと考える方が自然だ。よって、正式な単語はDéployant claspであり、その頭文字から発音の良さで「Dバックル」と呼ばれたと推測する。尚、英語でdeploy(動詞)とは軍隊用語で「配置に付かせる」の意で、この部品に当てはめることは差し詰めはずれていないと考える。



(Dバックルの効果はテキメンだ。メリットはあれど、デメリットはまずないはず〜)


Dバックルの利点は大きく分けて4つある。
1)時計の装着が簡単、迅速(簡単便利)
2)時計を落とす危険が少ない(リスクフリー)
3)革ベルトの寿命が格段に伸びること(コストセーブ)
4)見た目にも違和感なく、革ベルトにも皺が寄りにくい為、美観を保てる(ルックスナイス!)

と、まぁ、言いこと尽くめである。

最近は金属アレルギー防止の為、ニッケル含有量を極小に抑えるなどの工夫もあるので装着面からも問題は少ないと言える。

(⇒右写真: 
シングル式のダブル・フォールディング式のDバックルはPOLJOTに後付けしたものだ。
プッシュ式ではないが、非常にカッチリしたロック加減が素晴らしい。
イエローゴールド・プレートのバックルはPOLJOTの金ケースとも相性はバッチリだ。)





(シングル式かダブル式か、はたまた伝統的な美錠でゆくかはユーザー次第〜)

しかし、シングル式の場合は人によっては金具が手首横まで来てしまうので、痛みを伴う場合がある。その場合は装着の方向を、すなわち、革ベルトを上下逆に付け、美錠の位置を調整すると意外と改善されることもある。それでも難しい場合は、ダブル式に変更することだ。ダブル式であれば全長がシングル式よりもコンパクトで短い為、このような問題は少ない。少し緩めにゆとりを持たせて手首周りのベルト長さを調整すればシングル式でも問題ないが、キッチリ装着したい人、キツメが好きな人にはやはりダブルフォールディングがお勧めである。個人的には最初からPUSH開閉方式のダブル式Dバックルの選択を薦める。

(←左写真: PUSH式ダブルフォールディングバックル装着のSEIKO SPRING-DRIVE)

人によっては、伝統的な美錠でしっかり締めるのが好きな人もいる。勿論それはそれで大変結構。革に付く皺で愛着を感じる人もいる。革ベルトを使い込んで、折に触れて新調する事を楽しみにする人もいる。全て正解である。要は好みであるから、時々の気分で美錠ごと換えてみる、というのも一案だろう。スイスのメーカー品では通常の美錠がまだまだ多いようだ。LANGE、PATEK、F.MULLER、LONGINE、CHRONOSWISS、VACHERON、等など多くのメーカーは旧来の美錠をOE(=標準装備)としているが、中にはOPTIONでDバックルを揃えているメーカーもある。恐らく、時計本体が貴金属製である場合が多いので、Dバックルまで同一素材にすると値段が跳ね上がる、という事情があるのかも知れない。各ブランドの美錠デザインに注目するのも新たな発見がありおもしろいものだ。





(いいこと尽くしのDバックル〜)

Dバックルのシングル式、ダブル式それぞれを装着した外観は右の写真のようになる。
(⇒左側時計: LUC1.96にBanda製PUSH式ダブルフォールディングを装着、
  右側時計: Tissot Porto 1935のシングル式DバックルはOEM)


見た目では区別がつかない。また、美錠幅と時計本体側の革ベルト幅とは通常2oの差がある。例えば、時計に装着する側のベルト幅が18mmの場合は、Dバックルを装着する美錠側の幅は16mmとなる場合が多い。このような時には18/16と表示される。一般市販品で幅広のモデルとしては24/22のPANERAI(44mmケースが有名である。勿論それ以上もあるし、モデルによっては上記の法則は通じないので自身の時計は自分でよ〜く確認することをお忘れずに。(2004/4/01)




(加筆修正:2007/1/28、2007/07/20、2007/09/08写真変更)

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