時計に関する随筆シリーズ (66)

『パリ・ヴァンドーム広場、最新時計事情』

〜2008年3月下旬、パリ散策記〜





3月下旬、イースター祝日を利用してパリを散策する。
今年の欧州は寒い。昨年が暖冬であっただけに尚更、寒く感じる。
日本ではサクラ前線のニュース満開というのに、ロンドンの今日(24日)は雪模様だ。(2008/3/24)


(↑上写真: パリ、ヴァンドーム広場にて撮影。この直後、豪雨となる。)



(ロンドン〜パリ間が列車でわずか2時間強の旅〜)

2007年11月14日、ロンドン市内のSt.パンクラス駅がパリ&ブラッセル行きのユーロスター発着拠点として開業した。列車の利便性は移動時間の短縮にある。
近距離であれば飛行機と列車の時間は逆転する。
ユーロスターであれば出発30分前までにチェックインすれば良いのが嬉しい。
筆者の自宅から地下鉄で20分足らず。早速、パリ行きのユーロスターに乗り込み、イースター休暇をパリで過ごすことにする。

(⇒右写真: St.パンクラス駅でユーロスターに乗り込む。
         壁面にある巨大時計には”DENT”のマークがある。
         DENTと言えば、国会議事堂のBig-Benを作った英国生粋の
         マニュファクチュールであるが、果たして昨年11月にオープンした
         St.パンクラス駅の掛時計にどうしてDENTマークがあるのだろうか?
         現代におけるDENTブランドの意味とは何か?)




(パリの起点はいつもここ、凱旋門〜)


ユーロスターでパリ北駅に到着する。
ここから地下鉄を乗り継ぎ、シャルル・ドゴール・エトワール駅で下車。
今回の宿は凱旋門駅から徒歩10分にある4つ星ホテル。
4つ星とは言え、ここはパリ。イタリア同様、木目細かいサービスと設備は鼻っから期待していない。予想通り、ホテルの部屋では幾つかの不満点・不備があるが、許容範囲と諦めの境地で、のんびりとオ気楽に行くことにする。

今回の旅は完全に無防備。
準備も予習もゼロ。云わば手ぶら、ノーガードのぶらり旅である。本当は一箇所だけ行きたい物理系博物館もあったが名前が思い出せずに諦めることに。以前、松山猛氏の紹介記事で目にした場所だが、超マニアックな場所だけにガイドブックやネットでも調べることがままならない。要復習、である。

(↑上写真: 凱旋門は屋上まで登ることが出来る。途中のフロアで凱旋門の歴史やらも学習できる。時間に余裕があれば是非、お薦めの観光ポイントである。名所旧跡の典型ルートは、何度来ても感動する。今回、一番の発見はこの凱旋門に面したカタール大使館だ。何時からここに構えているのか分からぬが、良くもまあ、この一等地を確保したものだと感心しきり。オイル&LNGマネーの威力であろうか。誰もシャッターを切らないカタール大使館をビシバシ撮影しまくる『時計オヤジ』である。)



(5年ぶりのヴァンドーム広場にて”ウィンドウ・ショッピング”を楽しむ〜)

前回訪問は2003年7月の酷暑の最中。
今回は3月ながら厳寒のパリ。北風と強雨も重なりフル防寒装備で臨む。
このヴァンドーム広場とオペラ座方向に伸びるRue de La Paixがパリにおける『時計鑑賞の聖地』である。

有名なグランサンクGrand Cinqとはこの広場に構える通称、パリ5大宝飾店のこと。
ショーメ、ブシュロン、モーブッサン、ヴァンクリフ&アペル、メレリオ・ディ・メレーを指す。時計も含めた超超高級宝飾店という位置付けである。
一方、世界の5大宝飾ブランドと言えば、ハリー・ウィンストン、ブルガリ、カルティエ、ティファニー、そしてヴァンクリフ&アペルのことだ。ヴァンクリフ&アペルだけが2冠を達成することを知る人は少ない。




これが時計のグランサンクであれば、どこであろう。
2003年冬号の『時計ビギン』によれば、
パテック、ヴァシュロン、ブレゲ、オーディマピゲ、ランゲ&ゾーネが推挙されている(←左写真)。
5ブランドのに絞り込む最重要条件の一つが、技術と知名度に裏打ちされた歴史であろう。
上述、新興ブランドのランゲはこの点からははずれる。しかし、技術的完成度、デザインの独自性+歴史性から見ると矢張り抜群の極上時計だろう。時計ビギンのグランサンクは順当な格付けと賛同する。


筆者愛用のグランサンクであればこうなる。基準は全て『マニアックに偏り過ぎない実用時計』であること。
第一群) パネライ、ロレックス、フランクミュラー、JLC、ショパール。
第二群) グラスヒュッテ・オリジナル、カルティエ、セイコー、オメガ、ゼニス。

しかし、このヴァンドーム広場では実用時計等の概念とは無縁だ。
この広場に面する宝飾店で販売される時計は実用とは対極、日常とは別次元、にある。
トゥールビヨンはごく当たり前。惜しげもなくダイヤモンドやら、まばゆい宝石でケースが埋め尽くされた時計が居並ぶ様はまさに圧巻。溜息を通り越して、笑ってしまう。ダイヤの使い方がふんだん、と言うかここまで来るとダイヤの有難味が消えてしまうようにも感じる。本場スイスでもこれ程までの豪華時計が居並ぶ光景は稀だろう。文字通り、目の保養には最適な店舗が居並ぶのがヴァンドーム広場の底力である。

ヴァンドーム広場とはまさに異次元にあり。
世界の本物のセレブと金持ちの為に、最上級のタイムピースと厳選ブランドのみがショウ・ウィンドウに並ぶ資格を持つ。



(IWCの7日巻き"ミステリー・トゥールビヨン"は存在感十分〜)

ヴァンドーム広場には老舗時計メゾンも幾つか軒を並べる。
その代表格がパテック、JLC、ブレゲである。
そしてヴァンドーム広場から一歩離れた通りには、まさに時計銀座とも言うべき専門店が林立する。その中で目に付いたのがIWC、Cartier、リシャールミル、ショパールなどのメゾン直営店だ。

(⇒右写真: IWCブティックにて撮影。
   ペラトン式自動巻き搭載の7日巻きトゥールビヨンはプラチナ製50本限定。
   ローズゴールド、ホワイトゴールドは各250本限定生産。
   文字盤の鈍いグレーが落ち着いた雰囲気を醸し出す。現代技術の粋である。)


IWCのこうしたクラシックラインは無難で安心できるデザインであるが、例えば新型のトノー型ダヴィンチやダイバーモデル系アクアタイマーになると、ちょっと考えさせられる。好みにも因るのだが、どうも無理して生み出したデザイン、不自然さを感じさせるデザインとでも言うべきか、一言で言うと長続きしそうもないモデルに見えて仕方ない。






(←左写真: こちらは定番のROLEXサブマリーナ・グリーンベゼル〜)

説明不要であろう。2003年発売以来、すっかりと定番としての風格さえ漂わせるグリーンサブである。この緑ベゼルに長らく全く興味が無かったが、HEBミラノのグリーンベゼルを購入してからすっかりグリーンカラーに違和感が無くなり、気に入ってしまった。

元来、個人的にはグリーンという何とも中庸な色彩は好みではない。
しかし通常モデルとは異なり、黒文字盤に大き目の白ドットとの相性は決して悪くは無いことに最近では至極納得している。先日もロンドンのロイヤルオペラで、正装の紳士がそのゴツイ左手首に巻いていたのがグリーンサブ。そこはかとなくシック、ドレス時計としての風格さえ漂わせて見えたのはロレックス・マジックであろうか?

気になる価格は4920ユーロ。日本の定価の方が遥かに安いのが解せない。
中身は名機Cal.3135である。SSケースも一般的な高級素材316Lではなく、独自開発素材の904Lを使用する所が、地味ながら他社との差別化を図るロレックスらしい。SS素材が何であろうと、ごく一般のユーザーには無縁、興味の対象外であろうが、そこまで拘るのが実用時計の王様として君臨する所以だろうか。一切、手抜きをしない。ベンツにも共通する質実剛健の哲学がロレックスの信条だろう。アフター体制も考えれば、尚更に『良い時計』の代表格である。それにしてもユーロは高いなぁ(⇒2008年3月の為替相場では1Euroは約155円前後)。

⇒ROLEX グリーン・サブの考察はこちら。(2009/02/01)




(『ネオ・グランサンク』の筆頭に挙げられるF.P.ジュルヌのスヴラン〜)

ネオ・グランサンクの筆頭格としてこのFPJとリシャールミルは双璧だろう。
FPJの中でも、シンプルなスヴランは良い。大き目のケースに、今は亡き?IKEPODのような時針形状の針は、すっかりFPJのトレードマークとなっている。
秒針ダイアルとパワーリザーブの小ダイアルの位置関係もアンバランスなようだが、微妙な均衡を保っている。ビッグデイトもいかにも、らしくなくてスッキリしている。二重窓方式にしていないグラスヒュッテ方式のビッグデイトというのがその理由だ。
ただ、手巻の時計にしては竜頭がやや薄いのが気になる。
しかし、それも全体の仕上がり具合から見れば些細なことかも知れない(筆者には気になるが)。
宝石をケースに埋め込まずとも、立派に対抗できるこの貫禄。
FPJのモデルはどれをとっても失敗はない。正真正銘の『極上時計』である。





(最後にシャンゼリゼ大通りでJM.Westonに飛び込む〜)

毎度ながら、時計同様、靴にも興味が尽きない。
特にフランスであればJM.Westonが第一候補である。
今回、改めて感心したのは右写真(⇒)のモデル(黒、茶とも色違いの同デザイン)。
黒の一枚革ウィングチップ(メダリオンのみ)である。ハトメは7つというクラシックなもの。トゥのメダリオンこそ普通に見えるが、それ以外の場所も全てメダリオンだけで線を描く。一枚革で丁寧に仕上げているのが凄い。とってもお洒落、正々堂々とドレスシューズしているのが素晴らしい。
ジョンロブのフランス版とでもいうべきか、今やトラッドのデザインは完全に板に付いたウェストンである。

JM.Westonの斜め向かいにはルイヴィトンが構える。
この店内も休日にもかかわらず世界中の観光客、買い物客で賑わっている。
一昔前と異なり、お客様対応係りの店員数が一段と増え、その対応も以前の客を見下すような姿勢ではなく、至極当然の接待をしているのは流石に時代の流れか。少々商品群の拡大路線に走っている傾向が気になるが、それでも定番や革製品のデザインは見事に垢抜けている。最近ではゴルバチョフやセレブを使った広告シリーズも面白い。
ルーヴル美術館もよろしいが、『時計オヤジ』はこうした商品鑑賞だけでも熱く感動してしまう。

パリから溢れるエネルギーは相変わらず中々のもので、毎度ながらこの市内散策は楽しい限りである。(2008/3/29)


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