考察シリーズ E 

『999.9(Ref.#M-07) vs Japonism(Ref.#JN-446)』




『時計オヤジ』は『眼鏡オヤジ』でもある。
コンタクト・レンズには興味が無い。どんなに不便でもメガネ、眼鏡派である。
最近、お洒落なフレームが増えている。
今回は愛用する最新2大ブランドについての考察を少々。




(元来、メガネに楽しさなどは存在しない〜)

メガネをかける行為には大きく二つの目的が存在する。
@ 視覚矯正用の道具としてのそれ。サングラスも本来はこちらに属する。
A ファッション小道具としてのそれ。
この2点のどちらに軸足を置くかで、メガネの選択は大きく異なる。

筆者がメガネにお世話になり始めて、かれこれ40年。
日常生活においてこれ程邪魔でうっとおしいものはない。特に夏場。ビーチやプール等のアウトドアでは不便極まりない。雨天のゴルフとかでは今も往生している。しかし、これ程必要不可欠な道具も他には存在しない。
時計であれば特段、無くとも日常生活で支障をきたすことはあるまい。
しかしメガネは違う。最早、文字通り機能としての身体の一部、顔の一部でもある。
コンタクトレンズという手段もあるが、何故か今日までメガネ一筋できた。眼球に直接”コンタクト”する行為とその儀式にどうしても馴染めない、というのがその理由である。メガネは邪魔だが簡単。しかし、40年前の時代、メガネといえばそのデザインも、メガネをかけるという行為そのものに対する印象も決して良いものではなかった。1990年代に入ってからようやくメガネのデザインにも垢抜けたモデルが各種登場し始め、またメガネをかける行為にもファッションとしての前向きな評価や価値観が形成され始めた。

そうしたメガネ文化が開花している現代において、『眼鏡オヤジ』が注目する2つのブランドが存在する。
現在愛用する10本以上の中でも、上記目的の@とAの軸足が高度なレベルで結実したのが以下の2本である。



(フォーナインズ。”眼鏡は視覚矯正用具である”との哲学から生まれた本格派〜)

フォーナインズ999.9は1995年に誕生した。会社のネーミングからして好ましい。
2004年に発売されたこのモデル、M-07はアセテートとチタンの異素材から成るコンビネーションソフレームだ。軽さと頭を包むようなフィット感、そしてフォーナインズ最大の特徴である独自形状の丁番(ヒンジ)のデザインが魅力の源泉だ。サイズは54□17−135

矯正用具であると共に、デザイン面でも可也のもの。
メーカー側は決してデザインを強調しないが、実はフォーナインズの最大の武器はメガネとしての基本機能に加えて、時代を切り開く最先端のデザイン開発力にある。基本があるから応用(デザイン)が利く。


このM-07は所謂、アイブロウ・モデル。
文字通りサイドのテンプルから眉の部分にかけてアセテート製のフレームが流れるようなアーク(弧)を描いている。この曲線が頭蓋骨、即ち顔面の正面からサイド側頭部にかけてをグルっと囲むようにホールドするのがフォーナインズ独自のエルゴノミクスergonomicsである。デザインも機能も一級品。それもそのはず、M-07はポッと出てきたモデルではない。
1997年、初代M-01登場。M-01はメーカーも認めるデザイン優先商品。その結果、機能面で幾つかの問題点が発生し、以降1999年のM-03、2003年のM-05と改良品を重ね、2004年4月M-07、M-09モデル発表へと至る。云わば熟成を重ねた定番的モデル。車で言えばカローラ、時計でいえばROLEXのデイトジャスト的な完成度にある。


アセテートも6色から選べるのが心強い。筆者のお奨めはこのクリアと赤の2本。アセテートの中心部にはチタン素材の骨格が透けて見える。このチタン製の骨格はそれだけでもメガネとして成立する構造だ。前作M-01をベースに大幅改良されたM-07は購入後、丸3年を経過したがフォーナインズ店頭における数度の微調整を経て、今では所有するメガネで1〜2位を争う愛用モデルになってくれた。





(こちらも日本的デザインで勝負するジャポニスム〜)

1984年創業のボストンクラブ社はOEM中心に製造事業を展開。
そして1996年に待望の自社ブランド”ジャポニスムJAPONISM”を立ち上げた。
今回、束の間の東京滞在の時間を縫って、『眼鏡オヤジ』は青山にある直営店”GLOSS”を訪問。無理をお願いして翌日仕上げで完成して頂いた。

持論だが、メガネと靴は実際に試着するまで決断できない。
どんなに良いデザインであろうとも、自分の顔型、足型に合わなければ断念せざるを得ない。この点が腕時計と一番異なり難しい点ある。


2007年春の新作として発売されたこのJN-446もフォーナインズと同素材、アセテート+チタン(=βチタン、チタン合金、純チタン)のコンビネーション。現代のコンビ素材の主流である。このモデルはデザインが素晴らしい。フォーナインズを柔とすればこちらは剛。チタン製太枠で出来た”ヨロイ”部分は如何にも強い押出し感で溢れている。加えてテンプルの太さとカラーリング。”スペース・ブラック・パープル”と呼ばれるギラついたべっ甲のような出来映えが見事。サイズは55□17−138であり、フォーナインズより大きめである。総合的な装着感はM-07に軍配が上がるが、ジャポニスムの『板バネ機構』も素晴らしい。鼻パッドの位置や素材を微調整することで、装着感は可也異なる。そうしたチューンアップを貪欲にトコトン追求することもメガネでは重要な点だ。鼻パッドは持ち帰ったロンドン市内においてシリコンゴム製に変更し、筆者なりに装着製を高める工夫をしている。因みにロンドンは中心部のREGENT ST.に日系メガネ店2社が出店しているので、木目細かい対応が期待できる。ニホンゴで微妙な言い回しをやり取りできるのは極めて有り難い。




(⇒右写真: 両モデルに共通するのはヒンジ部分の特別仕様〜)


この逆アール(R)型をしたヒンジ部分が素晴らしい(999.9 M-07)。
機能面における優秀さはご本家フォーナインズのWEBを参照願うとして、一目見て直感で感じるセンスの良さ。突出したヒンジ・デザインに目を奪われる。
腕時計で言えば脱進機に相当する重要部分だ。文字通りまさに要(カナメ)の部品に独創とデザイン性を盛り込んだ点が凄い。筆者は脱進機フェチではないが、メガネにおいてはこのヒンジ部分の出来映え、独創性を盛り込んだデザインであるか否か、に非常に注目する。

最近、この逆アール型ヒンジに似た国産モデルも登場しているようだが、外国製のメガネでヒンジ部分にまで手を加えたモデルは極めて少ない。よって、海内モデルにはアランミクリ以外、ほとんど興味を示さない。




(←左写真: こちらも独創の『板バネ式』ヒンジである〜)


ジャポニスムも負けてはいない。
βチタン製の『板バネ式』のヒンジで勝負だ。こちらのヒンジもフォーナインズ同様に逆型である。テンプル全体が板バネの役割として弾力性を持つように設計されている。こうした独創のデザインと機能にそこはかとなく惹かれてしまう。

加えてこのマッシブな”ヨロイ”部分。
現在の流行である太枠をヨロイ部分からサイドのテンプルにかけてのみ持ってきたのが好感が持てる。フロント正面のフレームにまで太枠で囲われると顔面全体が重く、硬いイメージになってしまう。この程度がエッジが効いたデザインで丁度良い。押出し感はモノに頼らず、自分の個性で勝負するべきだ。





(⇒右写真: 顔を包み込むデザインとは何かが良く分かる〜)

両者を比較して一目瞭然であるのはテンプルの湾曲(テンプル曲線)の違い。
フォーナインズの丸みを帯びた人間工学的ライン、ジャポニスムの古典的なライン。アプローチは異なるが、装着感の飽くなき追求が共通点。ゆえに妥協を感じさせない職人気質を感じさせる全体の仕上がり具合が満足度を引き上げてくれる。

筆者の好みは圧縮型プラスティック・レンズである。
重量と厚みを押さえる理由だが、それでも可也厚めのレンズとなる。
フレームのデザインをレンズ厚が壊す、ことも有り得るが幸い何とかバランスを壊さ維持していると感じている。

最近ではメガネ、コンタクトレンズ以外で外科的手術による視覚矯正方法も登場した。
いわゆるレーザー(レーシック)手術であるが、筆者の周りでも多くの人がこの手術で矯正に成功している。
トルコのイスタンブールではこうしたレーザー手術が流行っており、日本円にして5〜10万円で手軽に出来る。設備投資の回収には件数で稼ぐ手段を選択した結果と思えるが、余りの手軽さに驚いた記憶がある。日本から出張に来たついでに手術をして帰った猛者もいたほど。眼鏡オヤジには怖くて手が(目が?)出せない方法ではあるが、術後の皆さんの感想は共通して『別世界が生まれる』、とのこと。



(残るは念願の『
赤いフレーム』の眼鏡製作のみ〜)

時計同様、元来、クラシック・デザインの眼鏡が好みである。
例えば、ボストン。時計で言えば丸型ケース。
例えば、ウェリントン・フレーム。時計で言えば角型ケース。
眼鏡の基本はこの2型であるが、今回のフォーナインズやジャポニスムではこうした2型では括り切れない新たな造形にチャレンジしているところが評価できる。

ここ数年、興味があるのは赤いフレームだ。
←左写真は2004年7月にインタビュー面談した際のクロノスイス社長、ゲルト.R.ラング『教授』である。同氏のトレードマークであるボストン型の赤いメガネは本当に綺麗であった。丸みを帯びた細手のセルフレームが何ともお洒落で今も憧れている。年齢を経た御仁にこそ似合う赤色に、そろそろ手を出そうと考えている今日この頃である。(2007/07/14)



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