1986年製のこのモデル。
ケース形状、素材、文字盤デザインの全てが特注品である。
このフェイスだけを見て、時計ブランドが分かる御仁がいれば『時計オヤジ』は感服する。
古き良き時代のスペシャル・モデルを拝観する機会を得た・・・(2010/05/23)
（”GCC、湾岸協力会議”という言葉をご存知か〜）
1981年2月4日、アラビア半島の湾岸（GULF)6カ国によるGCCは、貿易・経済・観光・立法・人材・関税・通貨などの各分野における関係強化と協力推進を目的に設立された地域協力機構である。本部はサウジアラビアのリヤド。主要な参加者は各国の元首（王族）であり、実質的には湾岸地域最高の国際首脳会議である。
1986年、丁度イラ・イラ戦争が激化する中で第7回GCCアブダビ会議が開催された。イラク支持を再確認し、イランへ対抗する立場を鮮明にした会議でもあったが、冒頭の時計はその第7回GCC会議で参加者に配布された特注品である。もちろん、非売品だ。
筆者の知り合いで、現在も某国でサウジアラビア大使を務める御仁から拝借したものだ。長らく使用していなかった為に、電池も切れてしまい（クォーツ製）、中身の機械も相当くたびれているはず。
リヤド市内のB&M正規代理店を紹介し、この程、無事にOVHも終えて、約25年の垢を落としてまた『現役』に戻ったところである。
⇒右写真：2010年5月11日、リヤドにおいて開催されたGCC首脳会議の参加者達。6カ国の国家元首(王様）が一堂に会した貴重な写真（サウジアラビアの新聞”Arab News”より）。左からクエ−ト国王、カタール国王、オマーン国王、サウジ国王、バーレン国王、サウジ皇太子、ＵＡＥ副大統領兼ドバイ首長。現在の中東(湾岸）における最高指導者達である。
（古典的なベルトも中々落ち着いた雰囲気を出している〜）
異型８角形のケースにミラネーゼ式のようなブレス。
素材は全て18金。
湾岸(GULF)の地図が配された文字盤中央の６角形部分はGCCの旗でもある。
２５年も前の時計であり、全体には小振りの仕上がり。
しかし、CARTIER TANKもそうだが小さいと言ってもレディス用ほどではなく、ボーイズ的なサイズであるが時計本来の小物としての控え目な存在感と押し出し感を決して毀損してはいない。
現在のB&Mでは多分作れないであろう、古典、クラシックとしての古き良きデザインがこの時計にはある。まさに選ばれし者のみが身に付けることを許される『別注時計』である。
（フェイスも良いが、裏面形状には何故か惹かれるものがある〜）
角面を斜めに落としたこの裏蓋デザインは表に負けず劣らず、中々のデザインセンスだと感じる。
４箇所のビス留めも上手い処理だろう。
メッシュ式のようなブレスとのマッチングも、まさにこれ以外の組み合わせは無い、という雰囲気である。
古典としてのB&Mを感じ取るには好例の１本だろう。
（B&Mについての雑感〜）
ボーム＆メルシェの代表シリーズと言えば、RIVIERAとCAPELANDが思い浮かぶ。しかし、現代において両者共にその存在感は薄い。
比較的廉価版の激戦ゾーン（２０〜５０万円レンジ）にメゾンとしての立ち位置を持つB&Mであるが、依然としてその存在感は中途半端と感じる。
最大の理由は端正で簡素なデザインが迫力に欠ける点だろう。
例えば、クラシマ・エグゼクティヴ・シリーズは同社の中核モデルだ。
敢えて正攻法でドレスウォッチの王道を目指す戦略は理解できるが、いま一つ、デザインがぼやけている。明確な個性に欠ける反面、教科書通りのデザインでもないからだ。４２mm径中心のラインは時流に媚びた印象を与える一方で、大型化した文字盤はシンプルというより空虚さが漂う。厳しい表現だが、１９５０年代モデルを範とする割にはチープな仕上げである。
逆に一石を投じているのが”HAMPTON SQUARE BIG-DATEモデル”。
こいつは明確な先進性を角型とチタン合金の素材で表現している。存在感も押し出し感もそれなりであり、真面目な堅気さ加減を感じてしまう。価格はやや高めだが、面白い時計だ。デザイナーのセンスを感じる。
今回のモデルに見られるような、独創性とマッシブなデザインこそが今後、B&Mが取り組むべき課題だろう。
このままではB&Mは危ない・・・。(2010/05/23)
⇒2006年10月にチューリヒで見た『クラシマ・ジャンピングアワー』はこちら。
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