OMEGA  オメガ 

OMEGA SEAMASTER AUTOMATIC 120M CHRONOMETER
Ref. 2501-3100 Cal.1120

〜我が親愛なるK・K君に捧ぐ〜



オメガのモデルとしては極めて地味な存在にあるシーマスター。
しかし、そのデザインは伝統ラインと挑戦を巧みに融合させた普遍性を誇る。
特に、シルバー・ウェーブ模様を中心部に配した『2重ダイアル』のデザインがこのモデルの最大の特徴。
加えて青焼きスケルトン針を配置するシタタカサ。
これぞ、『オメガ・デザインの妙』である。


(年齢を問わぬ万人向けオメガの代表格、シーマスターSeamaster〜)

オメガ・ブランドの『3枚看板』といえば、スピードマスター、コンステレーション、そしてこのシーマスターだろう。デ・ヴィルはドレスウォッチラインとしてコンステレーションに近いが、オメガの中では常に先進的実験モデルが投入される別格的存在だ。シーマスターの最大のライバルは言わずと知れたROLEXのサブマリーナであるが、その軍配は圧倒的にサブマリーナに上がる。サブマリーナの一人勝ちの状況にようやく2005年にプラネット・オーシャンの投入で一矢を報いようとするオメガ。加えてジェームズ・ボンドのスペシャル・モデルを投入するが、サブマリーナの牙城は未だ揺ぎ無いものがある。ダイバーズ・ウォッチに於いてはROLEXの後塵を拝し続けるオメガの代表選手。故に、常にその存在を厳しく問われている。
存在感を求め続けられるインハウス・ブランド、それがシーマスターである、とやや辛口の評価になる。

そんなシーマスターであるが、近来の一連の120m防水モデルの起源は、1981年にジャック・マイヨールが素潜りで101mの世界新記録を樹立した時に腕に巻いていたもの。その後、シリーズとして1995年以降あたりから数々のモデルが登場したが、中でもこのRef.2501-31は断トツに宜しい。
ケース形状は、スピードマスターにも共通するラグを持ち、極めて安定感あるオメガの伝統的な意匠を有する。
5連ブレスも冒険はしない。ケース形状にマッチさせてボリューミーな仕上がりにしているのは巧い。2・4連目にあるブレス駒には細い切り込みデザインが施され、無骨な中にも繊細さを強調している。そして何よりも、この文字盤のデザインが抜群に宜しい。子供っぽいイルカマーク(=マイヨール・スペシャル)ではなく、シーマスターのトレードマークでもある波型の小ダイアルを文字盤中央に配するバランス感覚は流石。同様なデザインはクォーツモデル(Ref.2511-31)にも存在するが、こちらはデイト表示窓が波型調小ダイアルに食い込んでしまい、デザインを損ねてしまう。ETA2892A2ベースの自動巻きモデルのみが、デイト窓を波型ダイアルの外側に配置することが出来る。『時計オヤジ』が重要視するデザインバランスの観点からは、この差は極めて大きな違いである。
(⇒右写真: デイト表示が中央波型デザイン部分に食い込んでいるのがクォーツモデルだ。赤丸部分。)





(←左写真: シルバーの文字盤は気品溢れる仕上がりだ〜)

INDEXは植字式。
そして時針は先端にドット式夜光を廃したスケルトン針である。
この針のデザイン処理も巧みだ。
分針が文字盤外周の分秒メモリーまで目一杯、届いているのが重要だ。
寸足らずの長さの時針が多い中で、オメガとロレックスはツボを押さえている。(※)
光の加減で、心地良い反射と光沢を放つ中央にある波型小ダイアルは、デザイン的に好みが分かれるかもしれないが、シーマスターの特徴的意匠と捉えれば、これも中々オツナモノ、であるまいか。
陸ダイバーにも十分、使用頻度を保証してくれる全体のデザイン処理が最大の特徴、かつこのモデルの強みである。
(※)同じスケルトン針でも300mProfessionalモデルでは寸足らずであるのが惜しいなぁ、不思議だ・・・。







(←左写真: 
  因みに新型デイトジャストにも中央に小ダイアルを配置した文字盤が存在する〜)

ROLEXの新型デイトジャストにもツートーンカラーの文字盤が存在する。
こちらはグッと引き締まるカラーリング。反対色の2色使いであるのでその印象はオメガと比較して可也異なる。
押出しの強さ、とでも言うべきか、個性的な色使いだ。
このモデルも高級感に溢れ、仕上がりの上手さは流石、ROLEXだ。
文字盤外周にあるレールウェイ目盛にまで、分針がキッチリと届いている。
これが老舗、時計屋メゾンとしての底力、眼力、でもあろう。
こうした点に拘るユーザーは少数派であろうが、故にそこまで配慮するメゾンは信頼出来ると断言できるのだ。
ROLEXの他にも最近ではORISやRADOもシルバー&ブラックのツートーンカラー文字盤モデルをリリースしている。こちらもコストパフォーマンスから見ても侮れない実用時計である。







(全体の雰囲気は非常に大人しいが力感溢れるデザイン〜)

ケース径は36〜37mm程度。ややケースの厚みがあるので、丁度良い大きさである。手首上での納まり具合も及第点だ。
ON/OFF両用が可能となる最大の理由は、シルバー文字盤にあるのだが、ブレスは厚みも幅もボリュームがあるので、冠婚葬祭には不向きだ。それ以外の場面では、オールラウンドに対応可能な実用時計の筆頭格にある。

現行シーマスターにはCo-Axial搭載のアクアテラもあるが、共に玄人受けするシンプルデザインながら、中身の機械も良い。このシーマスターはETA2892系なのでフリースプラング搭載ではない。それでも『クロノメーター規格』にまで精度を追い込んでいる。ベースとなるETA2892A2は1975年に開発されているが、その潜在力・信頼性の高さは30年以上のロングセラーが証明とも言える。そう言えばCo-Axialの初期型キャリバーCal.2500もETAベースだなぁ。

個人的にはETAの2892系、6497系、7750系(Valujux)の御三家キャリバーには絶大の信頼を置いている。ベースエボーシュとして加工なしにそのまま搭載しても、それなりの精度は保証される。願わくば各メゾンなりに磨きやパーツの仕上げをUP-GRADEさせることで、更に高精度・美しい外観に仕上げてもらえばETA搭載に関して何ら抵抗感はおろか、喜んで受け入れる。
最悪でもローターだけを交換、メゾンの刻印を入れる位の加工は必要だろう。
各歯車の研磨加工と精度UP、地板の仕上げUP、テンワのフリースプラング化を果たせてもらえば、全く違和感は無い。おまけとして、ローターや受け、ブリッジの各パーツにエングレービング(彫金)加工が入れば文句は皆無となる。尤も、ここまでくれば立派な新型キャリバーになってしまうが。




(PUSH式シングルDバックルはオメガ独自の『スライド方式』を採用〜)


国産メゾンではPUSH式は標準化されているが、スイスメゾンはこの点、後進国である。
その点、オメガのDバックルは先鋭的であり使い易い。
最大の特徴が、PUSH式に加えて、スライド式の伸縮性あるシングルバックルを搭載していること。この方式はオメガ独自のものである。←左写真のように手首側のバックル部分がスライドして広がる。実用の観点からは余り必要性が高いとは思えないのだが、ユーザーの利便性を考慮したこうした独自機構には『時計オヤジ』も◎の評価を与えよう。新型脱進機開発競争に現(うつつ)を抜かすメゾン程、細部の利便性には目を背ける傾向がある。本末転倒とはこのことだ。

JLCのダブルフォ−ルディングクラスプは更に凝った造りであるが、こうしたバックルの構造や部品やらを考察するのも各メゾンの哲学が滲み出ているようで楽しみの一つだ。

オメガの良さは、Co-Axialにチャレンジしつつも量産化を目指し、足場を着実に堅固にする企業努力を怠らぬ姿勢にある。このシーマスターにもそうしたオメガの技術と配慮がフィードバックされていることが嬉しい限りだ。







(5連方式のブレスレットはその長さの調整にも気配りが見られる〜)

プッシュ式Dバックルは外観からはどこに位置しているのか識別はつかない。
唯一の目印が金色に装飾されたΩマークである。この片側横位置にPUSH式ボタンが配置される。金色のΩマークも気に入っている。こうしたワンポイントのレリーフにさりげない高級感を演出している。全体にシルバーで統一された中での金色Ωマーク配置は『時計オヤジ』の好みの手法である。

5連のブレスを良く見ると3種類の大きさの駒が見える(⇒右写真)。
これらの駒を調整することでジャストフィットの長さ調整が出来る。
こうした点も、スイスの雲上級メゾンでは中々見られぬ細かい気配りである。
SEIKOやCITIZENにも通じる細やかな実用設計思想を実現する所がオメガたる所以だろう。

一方で、このシーマスター、ブレスのデザインも含めて全体にぼてっとした印象を受ける。その理由は、恐らくケースとブレス全体にエッジが少ないこと。
特にこのブレスは一目瞭然、一コマ一コマがふくよかに角にも丸みが付けられていることがボリューム感漂うが、シャープさに欠ける点かも知れない。




←左写真:
こちらはフランクミュラーの同じ5連ブレスであるが、丸みを持たせながらも適度なエッジを保っている。
ブレスの駒(リンク)も丸みはあるのだが、鏡面処理をしていること、そして上面部分をややフラットにしていることがシャープさを生み出している。
鏡面処理の効果はシャープさ、切れ味を感じさせるには有効な処理だ。
フランク・マジックの面目躍如、とでも言うべきか・・・。











(グラスバックではないが、シーホースのレリーフは一目でオメガと識別できる〜)

120m防水機能でダイバーズ・ウォッチを名乗るには現代では少々ヤワかもしれない。オメガ現行のシーマスター(アクアテラ)でも150m防水、プロフェッショナル系は300m、そしてプラネット・オーシャンが600mとなる。本格的なダイビングをする御仁で120m防水時計を選択するケースは稀だろう。このシーマスター120mは、あくまで防水機能を安心感としての保険と考えるのが正しい。

ネジ込み式の裏ブタにはオメガのトレードマーク、シーホースがレリーフされている。これはシーマスターやスピードマスターでも同様だ。余談だがどうしてスピードマスターにも海の守護神シーホースがレリーフされているか解せない。
本来、シーホースとはギリシア神話の12神の一つである海の神様ポセイドンの息子トリトンに伴い、ポセイドンの乗る戦車を引くと言う『半馬半魚の海馬』である。名前はヒッポカンポスHippocampというそうだ。れっきとした名称があるとは知らなかった。上半身が馬、下半身が魚というのだが、前足に水掻きがつき、ノルウェーとイギリスの間の海に住むというのも何故か面白い。下半身の魚部分がレリーフを見る限り良く識別できず、むしろドラゴンに見えてしまうのだが。 シーホースとは英語でタツノオトシゴの意味もある。成る程、そう考えると分かり易い・・・。
これも余談であるが、ポセイドンの性格は激情的で気分屋の反面、優しい一面もあるという。ギリシア神話でどうして神々の性格まで分析出来るのかはさておき、どうもポセイドンの血液型(あるとすれば)はAB型ではなかろうかと推測してしまう・・・。

兎に角、シーマスターこそシーホースのレリーフが似合うのは間違いない。
流行のグラスバックもこのモデルには不要だ。シーホースのレリーフの凝り様は鑑賞にさえ値しよう。
加えて文字盤にある波型ウェ−ブもシーホースの周囲に彫金されているのが宜しい。
デザイン面では勿論だが、実用面でもROLEX等のフラットな裏ブタと比較して、汗で手首に吸い付く不快感も減少する。表の文字盤と同様に裏蓋にもウェーブが刻印されている点が、『時計オヤジ』としては非常に悦に入るデザイン処理である。
裏面ではROLEXサブマリーナを凌ぐ見事なデザインだ。



(⇒右写真: 『時計オヤジ』愛用のスピードマスター裏ブタにもシーホースがある)

どうだろう、このスピードマスターのケース形状は。
特にラグのデザイン処理は脈絡と受け継がれたオメガ伝統のもの。このDNAは海(シーマスター)であろうと陸(スピードマスター)であろうと、オメガのスポーツモデルに共通したデザインだ。冒険もしない代わりに、安定感と落ち着きある風格さえ醸し出す。革新への挑戦と同様に、オメガのように『伝統を変えない誇りと勇気』を各メゾンには求めたいところだ。


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このシルバー文字盤のオメガ・シーマスター。
Co-Axial搭載ではないが、ムーヴメントの信頼性は揺ぎ無い。
ベースETAエボーシュだからと言って引け目を感じる必要は皆無。
それよりも現行品には無い気品と大きな個性を持ち合わせた貴重なモデルだ。
雲上モデルのみならず、実用時計にも良い時計が少なくない。
こういう時計こそ『一生モノの腕時計』と言えよう。そしてそれを選ぶ自身の審美眼を育む楽しみ・・・。

『機械式時計初心者』にも違和感無く、『オメガマニア』にはより味わい深い腕時計として、『時計オヤジ』の大のお気に入りの1本である。(2006/6/14)



『ちょい枯れオヤジ』のオメガ関連WEB:

「OMEGA "HOURVISION" De Ville cal.8501のレポート(Part-2)』はこちら。
「OMEGA "HOURVISION" De Ville cal.8500/8501をジュネーヴ展示会で見る』はこちら。

「OMEGA CONSTELLATION CAL.564 12角ダイアル」はこちら。
「OMEGA CONSTELLATION CAL.564 ジェラルド・ジェンタモデル」はこちら。
「OMEGA SEAMASTER GENEVE CAL.565」はこちら。         
⇒⇒⇒⇒⇒⇒

「バンコク、再訪!」OMEGAコンステCライン購入記はこちら。
「トルコのグランドバザールで12角・黒文字盤と遭遇する」はこちら。
『オメガ、新旧12角ダイアル・デザインの妙』はこちら。

『2006年1月の時計聖地巡礼記・その9、オメガ博物館訪問記』はこちら。 (2006/10/14)




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