時計に関する随筆シリーズ (60)

『2007年夏。マルタ島・最新時計事情』




マルタ(共和国)、と聞いてもどこにあるか知らぬ人も多かろう。
小型犬”マルチーズ”発祥の地、地中海に浮かぶ小島である。
マルタ島の時計事情など聞いても何の足しにもなるまい。
2007年夏、『時計オヤジ』はそんなマルタ島で、束の間の夏休みを満喫することにした・・・。
リゾートでの鉄則は『何もしないこと』、ただただ、これに尽きる。

* * *
(上写真↑)滞在したTHE WESTIN DRAGONARA ロビーには何とPATEKの掛時計が鎮座する。
リゾート地のノンビリとした時間をもPATEKは正確に刻む(当たり前か)。
ワールドタイムも腕時計よりこうして使われると迫力倍増、デザインの素晴らしさががより引き立つ。



(マルタは地中海に浮かぶ小国である〜)


ロンドンからフライトで3時間ほど。『時計オヤジ』の小旅行の始まりだ。

←左写真がマルタ国際空港。これは滑走路側から撮影した写真。空港ビルには飛行機が接続できる登場ゲートは存在しない。飛行機は滑走路に止まり、乗客は皆、トボトボ、徒歩で空港ビルに向かうのだ。ノンビリして何とも良い雰囲気である。

マルタの面積は246平方キロ、淡路島の半分強、東京都の9分の1というところ。人口は僅か40万人。天然資源はほぼ無い。産業は観光と中継貿易拠点としてのfreeport機能。田舎である。夏でも寒いロンドンから夏を楽しむホリデーにはもってこいである。これが中東の湾岸諸国、ドバイであればこの時期は暑すぎて泳げない。ドバイの海であれば温泉と化すし、プールサイドでは40〜50度となり外にいることさえ危険となる。その点、マルタは程よい暑さと湿度で、極めて地中海性気候が心地良いのだ。




(右写真⇒: こんな感じで乗客は飛行機に乗るときも歩いて向かう。)

マルタ在留邦人は僅か約30〜40人。それとは別に日本人留学生が100人程度はいるらしい。母国語はマルタ語と英語、ということで英語を勉強するらしいが、純粋に英語習得の観点からは邪道であろう。魂胆はミエミエだ。

そんなマルタ島で『時計オヤジ』は束の間のバカンスを楽しむことにした。
リゾート地における鉄則、それは何もしないこと。
これには結構、勇気が入る。有り余る時間を読書や昼寝、音楽鑑賞をしながら海辺やプールサイドで楽しむ贅沢。やれ観光だ、やれ買物だとアクセクしてしては都会の生活と同じになってしまう。島では島の間延びした時間に自分を合わせるのが一番正しい。だらー、っとした時間の過ごし方がこういう土地では一番オキラクであるのだ。





(バカンスの成否はホテル選びで決まる〜)

大都市滞在におけるホテルであれば、どこでも宜しい。
寝るだけのビジネスホテルでも十分だ。
しかし、リゾート地ではそうは行かない。
何もしないのが鉄則である。よって、ホテルに滞在する時間も自ずと長くなる。そんなホテルでは豪華でサービスも木目細かいことが必須条件となる。
そうした目線で今回選んだのがウェスティン・ドラゴナーラ。空港からタクシーですっ飛ばして30分、St.Julianの入り江に構えるリゾートホテルは予想通りの5星施設。プライベート空間を満喫できる。

(←左写真: 中央奥の建物はカジノ。夜にはネオンがギラギラとなる。リゾートにカジノは良く似合う。)






このホテルの良さは、部屋の広さもさることながら、プールの数とホテル専用の砂浜ビーチを小さいながらも有していること。地中海のど真ん中に浮かぶマルタではビーチは少ない。上の写真にもあるように、岩場かコンクリーで固めている。波も荒い。ビーチがあるのは皆、漁港やヨットハーバーのような場所である。当然、そうしたビーチは水質も悪い。

Westinでは大型プールが2つ。子供用プール、ジャグジーが6つ程度あり、加えて室内プール&ジャグジーも完備ときている。海が好きな方にはまず問題はなかろう。









(←左写真)
ホテル近くのPublic Beachの光景。気温は30〜35度程度。結構暑い。
入り江の先にはヨットや漁船が停泊している。
観光客は圧倒的に「ガイジン」。マルタの地元の人はどこへ行っても少数派である。








(←左写真: 旅行時の時計&靴選びは毎回悩ましい。)
 今回のリゾート地ではペラペラの白革ローファーを選択。
 以前、トルコの某靴メーカーからプレゼントされたものだ。 
 長距離歩行には適さない。ホテル周りのピンポイントでの使用が正解。
 この黒ソックスはちょっと格好悪いが、快適性からはインナーソックスは必需品。












マルタ産の地ビールブランド”CISK"をベランダで楽しむ。
ホテル部屋のベランダも4畳半程の広さで十二分。
ビールのお味はそれなり。
結局、滞在中のマスター・ビールはこの後、HEINEKENに変更することに・・・。









(⇒右写真) 今回の時計もSEIKO ARCTURA KINETIC ダイバーが中心。
20気圧の防水性と何よりも、傷や盗難さえも気にせずガンガン使いこなせるオキラクさが重宝する。湿度でベタベタのリゾート地では、こうした頑丈な時計が一番。間違ってもドレッシーな革ベルトタイプの時計は使わぬこと、似合わない。
パネライも良いのだが、海やプールでの使用においてはキズだらけになることは覚悟である。
加えて革ベルトモデルをして水に、海水に浸ける気にはならない。
陸ダイバーの『時計オヤジ』には、そうした時計はもっぱら散歩用となるのは止むを得ないノダ。






(マルタ一番の繁華街、ヴァレッタVALLETTAを散策する〜)

マルタ一番の繁華街がここ、ヴァレッタにある共和国通り。
街全体が世界遺産に指定されている聖ヨハネ騎士団の街である。
平日にも係わらず8月の夏休みシーズンで通りは観光客でごった返す。
マルタ騎士団でも有名なマルタのシンボルといえば『マルタ十字』である。あのヴァシュロン・コンスタンタンのトレードマークにもなっているが、本家本元がここ、聖ヨハネ大聖堂である。有料であるが必見の観光スポットであろう。
何もしないリゾートであるのが、1週間も同じ場所にいれば外界への探索にも興味が湧く。
こうした散歩がてらの散策は一箇所滞在型バカンスの楽しみの一つである。







『時計オヤジ』はどこにいても時計からの興味が失せることはない。
ヴァレッタにおいても同様。こうした街並みにいると本能的に時計店を探してしまう。
何もマルタで時計を見なくても良いのであるが、そこが『時計オヤジ』たる所以であるから仕方が無い。
結論から、このマルタでも素晴らしい時計店が存在する。
恐らく島内一番であるのが、この”DIAMONDS INTERNATIONAL”であろう。
ヴァレッタの入口、共和国通りの入口にも店を構えるのだが、店舗はここだけではない。
一番の充実した店は後述のSt.Julianにある店であろう。
取扱ブランドは、VC、JLC、IWC、FM、B&M、Cartier、AP、MontBlanc、EBEL、BREGUET、PIAGET、等等の超一流メゾンであるが、その品数がこれまた凄い。お飾り程度ではなく、本格的な品揃えというのがお薦めの理由である。
マルタは既にEUに加盟しており、2008年からは通貨統合も実施する。18%のVATがあるので、値頃感は無い。EU同様であるのだから仕方あるまい。マルタ最大の武器は、真夏の太陽の下でリゾート特有の開放感が購買意欲を煽ることであろう。





(マルタもこの20年で一挙に開発が進んだ〜)

もと英国統治下にあったコロニアル的な雰囲気漂う旧館らしき建物と、最新ビルが混在する。
右写真は、ST.Julianでのワンショット。恐らくマルタ島で一番の高層ビルを背景に干からびた雰囲気漂う、古き良き時代の街並みが並存する。ヴァレッタでも感じたことだが、この島には古い中世の佇まいから始まり、1900年代前半の街並みやら、そして最新の再開発地区が混在する面白い街並みも楽しめる。

場所柄、そうした再開発には近隣諸国の投資・資金もかなり流入している。
アラブ系、北アフリカ系資金の投資先でもある。国名は伏せるが、街中でもそうした国や人間が活躍していることも感じられる。そう、『時計オヤジ』のマルタ訪問は今回が初めてではない。
20年前から来ている場所であるがゆえに、余計にその変貌が目に付いてしまう。





(St.Julianを散策してみる〜)

滞在中のWESTINの隣にはHILTONが構える。こちらは2003年頃にオープンした様子。
まだまだ出来立てホヤホヤのムードもあるが、概観はマンションのような佇まい。
ホテルにありがちな浮いた雰囲気は皆無。リゾートホテルなのに大人しく落ち着いているのが中々宜しい。

HILTONが面するのはPORTOMASOという小さなヨットハーバー。PORTOMASO自体が一大PROJECTで総合開発された場所。ハーバーを囲むようにHILTONNやその他の高級アパート、レストランで埋め尽くされている。どれもが億ションクラス。外国資本でないと開発は無理だ。ハーバーには高級クルーザーも軒を並べて停泊している。気分はまんま、オーナー???である。






(←左写真) 
ヒルトンの屋外プール。
そしてヒルトンの空中に張り出したテラスからPORTOMASOを臨む。












(ヒルトン内のブティックで、久々にPaul Picotに面会する〜)

『性』(さが)である。
ホテルにいるとどうしても時計を探してしまう。
ここで遭遇したのがポール・ピコ。
⇒左側が黒文字盤レギュレーター、右側がダイバーC-type。
特にダイバーのベゼル・デザインはどこかブランパンやブレゲのスポーツモデル、ROLEXヨットマスターや最新のロンジンにも共通しており好感が持てる。INDEXの四角いドットも新鮮。但し、針の出来映えがペナペナ感が漂い、針と針の隙間(間隔)も少ないので、少々高級感に欠ける。それでもベセルの立体的射出成型による18金が豪華。中身はETAであろうが、こうした単純な時計もいいなぁ〜、と結構気に入ってしまうのだ。クロキンに弱い『時計オヤジ』である。





(ボンゴレ・ファンの『時計オヤジ』にはたまらないのが食事の楽しみ〜))

旅先でのもう一つの楽しみが食事である。
しかし、マルタ料理には鼻から余り関心がない。
それよりも場所柄、イタリア料理の方が気になるし、美味い。
今や世界の街中でFAST-FOODが氾濫しているが、ハンバーガーはプールサイドの軽食としてで十分。
それ以外の食事はそれなりのレストランで摂りたいもの。
今回、滞在中に全て異なるレストランでボンゴレを5回も食したが、アルデンテとさえ頼めばどこも美味しい。イタリア料理はやはり美味しい。屋外のテラスレストランで食べる夕食は更に美味である。







そんなボンゴレ好きでも、たまには和食に走ってしまう。
PORTOMASOにある和食レストラン『禅』で久々に鉄板焼きを楽しむ。
和食といってもどうせフィリピン人が料理するのだろう、とタカをくくって入ったのだが、日本人シェフが数名いる本格的なレストランで驚いた。日本語でやりとりできる、というのも久々で安堵するところ。
フィレステーキと車海老のミックス鉄板焼きを白ワインで楽しむ。
何ともシアワセな時間であるのだ。

帰りがけに、今や画伯となったジミー大西さんを見かける。ケニアからの帰路、マルタに立ち寄ったそうだ。こんな場所で日本の著名人に遭遇するとは意外である。






(さて本題? PORTOMASOの”DIAMONDS INTERNATIONAL”で見かけた逸品を評する〜)

上述したマルタでの名店DIAMONDS INTERNATIONALのPORTOMASO店は見事。
店構え、展示モデルの数、ブランドの種類の豊富さで見ていて飽きない。こちらで拝見したモデルについて以下、品評する:



まずはマルタ・シリーズを持つヴァシュロンに敬意を表して・・・
こちらはパトリモニーの自動巻きラージサイズ。
直径40mmケースはドレス用としてはかなりデカイ。押出し感は抜群。
但し、気になる点がデイト表示窓と竜頭の大きさ。
デイト表示が6時位置INDEXの上に位置するが、中身のムーヴメントサイズの小ささが強調されてやや貧相。
加えてケースサイズと竜頭の大きさのバランスが破綻している。
どうしてこんな小さな竜頭にしたのであろうか。一目見てアンバランス。とても使いにくそうな竜頭デザインである。老舗VCであるのに、どうしたことか不思議だ。
ムーヴメントは百歩譲っても、この竜頭の大きさだけはいただけない。







オーバーシーズとロイヤル・イーグルのデュアルタイムだ:

この両モデルは素晴らしい。VCらしさがそれぞれ上手く表現されている。デイト表示も見やすい。パワーリザーブやDAY/NIGHT表示も付くプチコンプリ系だ。

このムーヴメントはAPのモデルと同じ。どちらが開発者か、はたまた両者ともJLCから仕入れているのか忘れたが、同じムーヴを使ってもメゾン独自の表現でお互い、見事な仕上げ・個性を表現している。左側オーバーシーズが好みである。




ご存知、VCのエジュリー(クォーツ)。

このトノーは中々宜しい。
フランクミュラー以外のトノーケースとしては、このエジュリー、CARTIERの手巻CPCPモデル、そしてBEDATのNo.3ラインが御三家だ。このエジュリーは全体がカーブしている、所謂、ドライビング・ウォッチタイプ。小振りなトノーケースが装着感の良さを保証している。今やVCの看板モデル。女性用であるが、大人の女性に相応しい、落ち着いた逸品である。
30代以上の淑女に推薦したい。








(こちらはAPのミレネリー、マセラティモデル〜)

上記のVCデュアルタイムと同一ムーヴを搭載している。
APのデザインは意外と派手である。考えてみればあのロイヤル・オークでさえ登場した当時はかなりの先鋭モデル。
実はAPとは老舗の中でも過激なデザイン展開をする硬派なブランドなのだ。
このミレネリー、流行の自動車メーカーとのコラボモデルである。デフォルメされた文字盤は好みが別れる。筆者の食指は微動だにしないが、こういうデザインもバリエーションの一つとしてはあり、なんであろうなという例である。
同じムーヴ搭載であればロイヤル・オークがお薦めだ。VCのオーバーシーズと一騎打ちとなるが、軍配はAPに上がる。






(EBELの1911シリ−ズは息の長いモデル〜)

極めて地味なメゾン。
人気も出ないが潰れもしないメゾン、という印象がある。
息の長い1911シリーズは完成されたデザインだ。ベゼルの5箇所ビス止めデザインは不滅であろう。数年前にTARAWAなんていうモデルが発表された時にはどうなることかと心配したEBELであるが、最近は遅まきながらデカ厚系に走ってはいるものの、自らのDNAにようやく気付きつつある、と感じている。
流石に昨今のデカ厚ブームの波に負け、ケース拡大44mm径へと拡大した”1911BTRディスカバリー”を投入したりしているが、EBELの源泉である通常モデル(それでも40mm径はあるが)の方が筆者の嗜好に合う。独特のブレスも良いが、こうしてみると革ベルトもケースデザインがより引き立って見事。





こちらは色違いの黒文字盤。
EBELの看板モデルだけあって完成度は極めて高い。
スタンダードなクロノグラフ、大人のドレス・クロノとしても活用の場はかなり広そうだ。
ONからOFFにかけてあらゆる場面で使えそう。
地味であるが、ケース形状も個性豊かで、柔らかいイメージで落ち着いている。3ダイアルとデイト表示位置もエルプリのような位置で好ましい。クロノメーター規格で10気圧防水というのが更に良い。おまけにシースルーバック。新型ブレスを付けたこの黒文字盤に、オプションでクロコ革ベルトを持てば、それだけで自分の生活における『腕時計広域経営』を実践できるだろう。このエベルのクロノグラフは意外にも可也の高得点モデルかも知れない。唯一、かつ致命的な欠点は時針の短さ。特に分針がINDEXまで届かないのは、『エベルよ、お前もか・・・』
とても『頭の良さそうな』クロノグラフがこの1911である。





(⇒右写真: 今回、ショッピングセンターで思わず目に留まったのがこちら〜)

こちらはCITIZENの輸出用モデル。ECO-DRIVEではない普通のクォーツ製クロノである。
パネライ並みの大型クッション・ケースに曜日表示がレトログラード方式というのがユニーク。安価時計にしては文字盤の仕上げと立体感も良い出来映え。10気圧防水、というのもオキラクである。こういう時計は面白いのだが、数あるコレクションを想像すると手を出してはいけない部類。頭では分かってはいるが、最終的に帰りの機内でニンマリ、眺めることになる。これもまたお土産として消え去る運命にあることを意識しつつ・・・。

マルタの夏はアンニュイ感も漂う中で、イタリア料理と腕時計に囲まれつつ、一週間の短いバカンスを満喫した『時計オヤジ』でありました。(2007/08/12)



⇒ (腕時計MENUに戻る)
(このWEB上の写真・文章等の無断転載はご遠慮下さい。)

TOPに戻る