考察シリーズ D

『LOST ART風、レザージャケットをオーダーメイドするの巻』




2006-2007年シーズンは世界的に暖冬である。
日本では革製衣料は、特にダブルフェイスのムートン等の売れ行きはさっぱりだろう。
しかし狩猟民族の欧州では、レザー志向は不変だ。
4着目となるマイ・レザー・ジャケットは思い切って自分でデザインすることにした。
イメージはまさに、あの『LOST ART』。
と、聞いて分かる方も凄いが、そんな『時計オヤジ』も好き者である!?(2007/1/13)



(革の良さは何と言っても自分の身体に馴染むところだ〜)

前回2004年のBDシャツに続くオーダーメイド第2弾である。
今回はトルコ・イスタンブールの革製ジャケット縫製メーカーにおいて、知り合いのイタリア人デザイナーと共に、自分で考えたデザインで革ジャンをフルオーダーすることにした。オーダーメイドの良さは、全てにワガママが効く所にある。価格も手間隙もそなりであるのだから、当然であろう。

オーダーメイドと同意語がワガママ。その心は、『着心地の良さ』に尽きる。ワガママと言えば、ロンドンは大英博物館のそばにあるラーメン屋系のWagamamaを思い出す。日本人が厨房にいるとはとても思えないこのWagamamaは、英国中心にベルギー、デンマーク、オランダ、ドバイと約60店舗のチェーン店だ。昨夏(=2006年)にはイスタンブールのLeventにある新ショッピングモール”Canyon”にも登場した。Wagamamaの味噌ラーメンは、まぁまぁ、何とかいけそーな味である。


閑話休題。
日本でのレザー製衣料品のポイントは、
@軽いこと、
A色とデザインが可愛いこと、
Bそして価格が『論外に安い』こと。

一方、欧州では、圧倒的にデザイン志向。革製品がある程度重いのは当たり前。加えて防寒性も重要な要素だ。この点が革文化が未成熟で、日本の重衣料に不向きな温暖気候となかなかマッチしないところか。今回は、ダブルフェイスのムートン素材は流石に避けて、しなやかさ、軽さを重視したラムスキンを利用することにした。因みに、以前原皮の加工・生産工場を見学したが、『皮』とは肉片や獣毛のついた天然の皮を指し、それをなめしたもの、加工したものを『革』と言う。よって『皮製』ジャケット、という表現は少々生々し過ぎる。『革製』が正しい。


(⇒右写真)
ワイルドな仕上がりをイメージしたのだが、出来上がりは予想外にフェミニン。ジーンズにも、ウールパンツにも似合いそうな予感が。しっとりとした上質なラムスキンが何ともいえない。
フルオーダーの為、サイズはジャストフィット。袖丈、着丈、肩幅の3点が鍵となるが、自己満足とは言えこのバランスが崩れると御破算である。特に肩幅と袖丈が重要である。
  



(自前デザインの90%はLOST ARTのイメージをベースとする〜)

ロスト・アートとはニューヨークで有名なオーダーメイド専門の超高感度のアトリエである。デザイナーであるジョーダン・ベッテンJordanBettenが顧客と対話形式でデザインやら細部を創り上げる、靴で言えばまさにビスポークの世界である。一方、こちらは、同年齢のイタリア人デザイナーとあれやこれや、議論を尽くした結果、このデザインに辿り着いた。
俄か『レザー・オヤジ』のこだわった点は、
@ 微妙なラウンドシェイプのカラー(襟)
A 全ての縫い合わせ部分をクロススティッチによる革紐で編みこむ。
B ボタンはレザーのクルミ式。前ボタンは7つ。
   ボタンホールも全てレザーで編込み式とする。
C 内側にはパスポート大のポケット2つ。ジッパーとボタン式に分ける。
D インナーライナーは袖部分とその他で素材を変える。
   レザータグにはイニシアルを焼き入れること。




(←左写真: バックは当然ベントなし。
        このパッチワーク感覚こそ狙いのデザインだ〜)


実はこのジャケット、正確には2着目である。
1着目は細部で満足できず、また諸々の点で完成度に達せずNGとなった経緯がある。デザイン段階と仕上がり後のイメージは、立体的な造形であるがゆえにピタリと簡単には合わない。加えて、凝りに凝ったデザインであることから、製作過程を経るにつれて新たな問題も分かってきた。これが素人の成せる業と言えばその通りであるが、一番苦労したのはデザイナーとの意思疎通。デザイナーは自分の独自性+解釈を表現しようとする。互いの個性を尊重しつつも、自分の希望と我を通すことは簡単ではない。そしてクロス式の革紐飾りをするのに、手間隙が掛かり過ぎることにある。
このようなジャケットが量産に向かない事は今回よ〜く分かった。
まさに、職人泣かせ。手間隙=コスト、に跳ね返って来る訳で、こちらも笑ってはいられないのだ。





(⇒右写真: 何とか完成した革紐クロスがこちら〜)

そうした『苦労』を『苦労』と呼べるか分からないが、四苦八苦した結果の作品である。愛着もヒトシオというものだ。
クロス式の革紐飾りの迫力とは裏腹に、出来上がりの印象はむしろ女性的。大人しくも可愛いらしいジャケットとも映る。

この革素材は前述の通り、ラムスキン。羊革である。
上質のラムスキンは柔らかいのは勿論だが、光沢、発色にも影響する。
一方、羊の大きさは牛よりはるかに小さいだけに、その原皮の大きさにも限度がある。従って、一枚革で作れるパーツの大きさにも自ずと制約が生じる。羊革を使った場合、比較的にパーツが小さくなるのはその為であり、逆に縫い目をデザインとして処理するのがこのジャケットのテーマでもある。

今回はレザージャケットのフルオーダーであるが、他のモノであれ、商品であれ、時間の使い方であれ、個人旅行であれ、自分の要求を極めようとするとオーダーメイドに行き着く。まさに一つの回答である。自分流、オレ流を表現するのであれば、モノ作りの過程を含めてどっぷりとオーダーメイドにのめり込むのも一興である。(2007/1/13)


(実際に着用するとこうなる〜2008年12月)
















(加筆修正) 2008/12/22 実際の着用写真を追加


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