考察シリーズ B

「ボタンダウン・シャツ」についての考察 



ボタンダウン・シャツ。
通称、BDシャツは、アメリカの老舗、Brooks Brothersの元社長ジョン・E・ブルックスが考案した。1900年のことである。イギリスで観戦したポロ競技をヒントに生み出したことは余りに有名な話だ。本家B.Brothersは決してBDとは呼ばない。「ポロ・カラー・シャツ」である。しかし、現代においては「ボタンダウン・シャツ」と呼ぶのがごくごく一般的である。反転式ケースで有名な時計のジャガールクルト・レベルソも、ポロ競技中にガラスが破損しない為に考案されたという逸話がある。20世紀初頭においては「ポロ競技」が上流社会の一つのSTATUSであったかもしれない。

BD=アメリカン・トラッドの象徴、というのが筆者の認識である。勿論、スタンダード・カラーでもトラッド足り得るが、筆者の価値基準からは認められない。従ってYシャツはBDしか着用しない。筆者にとってのアメリカン・トラッドの公式とは、BD+WING-TIP(外羽根、内羽根式を問わず)+3つ釦段返りの「NO.1スーツ」、であるのだ。最近は自分の年齢とデザインの流れもあり、「NO.1スーツ」には必ずしも拘らないが、BDシャツとWING-TIPはどうしてもはずせない。特に、襟のロールが命である美しいBDには長年魅せられてきた。

筆者の好みにおけるBDシャツの基準とは:
@襟の長さは8〜8.5センチ
A襟に絶妙なロールがあること 
B袖口の釦は2つあること
C左胸ポケットは必須。サイズは横12センチX縦13センチ



ポロ・ラルフローレンは@、A、Cに欠ける。
本家Brooks BrothersはBに欠ける。
J.PRESSも中々良いが、Aが問題。そして襟の真後ろの釦と、胸ポケットにあるフラップが不要である。

「帯に短し、襷に長し」であるのだ。
こうした中で、既製品NO.1として愛用しているのが通販で有名な”LANDS'END”(ランズエンド)のスタンダード・オックスフォードである。腰のある4.3oz生地はハードな洗濯にも耐える。型崩れも無く、何よりも生地の裁断と縫製が非常に丁寧なのだ。そしてBDの命である「襟のロール」は絶品である。襟の長さは8.5センチ。@〜Cまで全て合格、の逸品である。加えて、値段も極めてリーズナブル。アフターサービスも万全。これこそがメーカー魂、BD魂を具現した商品であろう。


そんなLANDS'ENDにぞっこんである筆者だが、デザインの細部に亘り、少々冒険をしたくなった。きっかけは、雑誌ラピタ(2002年3月号)のオーダーシャツ特集であった。当時、アラブ首長国連邦ドバイに在住していた筆者は、ここぞとばかりにインド人テーラーによるオーダーシャツ作成を試みた。


(写真上から)
1枚目(↑): ランズエンドの襟のロール。絶妙な仕上げである。
2枚目(↑): 同じく、ランズエンド。袖口にはボタンが2箇所ある。
3枚目(⇒):胸ポケットはゆったりとして、適度な大きさ。ポケットが無いシャツはカジュアルに見える。色のバリエーションも豊富であり、サイズもネックと袖丈のコンビネーションがあり、選択肢も広い。お仕着せがましいL、M、Sのみのサイズ展開とは違うのである。



                                             

さて、右写真がオーダーメイドで完成したBDシャツである。

ドバイは何故かテーラーが多い。「テクスタイル・スーク」と呼ばれる「繊維街」は歩くだけでもおもしろい。地元のアラブ人が着る白いトーブ(男性用)や、黒いアバヤ(女性用)はオーダーメイドが多い。インド人用のサリーも同様である。こうした現地事情もテーラーが多い背景かも知れない。「繊維街」のテーラーは結構、器用に注文をこなす。ドバイ在住の外人・日本人の常連客や、ホテルから紹介されて来る一見の外人客が中心だ。例えば、LANDS'ENDと同じデザインで安価なコピーシャツを作ることはいとも簡単であるが、それではオーダーの意味が無い。独自に考えた、こだわりのデザインポイントは次の8項目:

@襟の長さは9センチ。
A襟の高さは4.5センチ。
Bポケットサイズは横12センチ、縦13センチでの四角形。
C第二ボタンの位置は第一ボタンから9センチ下とする。
D襟元の第一ボタンホールと、袖のボタンホールは赤色の糸を使う。
Eボタンは全部クロス留め。
F袖口はイタリアン・カフスで釦は2個。。ダブルのように見えて実はシングルである。
Gゆったりしたサイズでありながら、決してルースフィットではない。


しかし、このような細かい注文にはドバイのテーラーは中々対応が出来ない。
残念ながら、「ミリ単位」の話が出来ないのである。1ミリの重要性を理解できないのだ。1ミリはおろか、1センチの違いも大雑把にしか把握できない場合が多い。また、縫製機械も良い物が無いので、ボタンホールの仕上げも縫製そのものも雑、である。かくして出来上がったカスタムシャツの出来ばえは、まぁ80点、というところであろうか。高得点の理由は"VALUE FOR MONEY"である。オーダーの費用は生地代を入れても3千円に満たないのだ。













写真上、左から:イタリアン・カフスと袖口の2個釦。
写真中央: 赤色の糸を使ったボタンホール
写真 右: 9センチと可也長めの襟サイズ。ロールも大きく、期待通りの出来ばえである。



話が少々それるが、ビジネス・シャツで一番重要であるのは、第一にその人の体型に合った正しいサイズのシャツを選ぶことだ。最近、ネクタイをしているのに、第一ボタンをはずしているビジネスマンが多すぎる。見苦しい限りである。首が苦しい、というのであれば正しいサイズを選びなおすべきだ。ファッションとは、デザイン・流行云々以前に、まずは「清潔さ」と「JUST-FIT」が大前提である。JUST-FITとは正しいサイズ選び、ということだ。ジャケットの袖が長すぎるのも同様である。物事への「こだわり」とは、あくまでそうした基本をマスターした上で成り立つのである。


さて、長年、BDシャツ主義を貫いてきた筆者であるが、最近ようやく自分も「白」のレギュラーカラーが似合うかな、と感じている。
お洒落の基本は何と言っても『白』である。そろそろ100番から120番くらいのピマ・コットン、若しくはエジプシャン・コットンのドレスシャツで「冒険」してみたいと考えているところでもある。。。(2004/4/20)



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