SWATCH   スウォッチ

SWATCH SISTEM51"SISTEM BLUE"
Model No. SUTS401




90時間のパワーリザーブ、51個のパーツ、そして僅か5つモジュールから成る新型自動巻き搭載。
2013年初頭に発表されて以来、販売まで実に1年半を要した。
待ちに待ったSITEM51は2014年夏にロンドンでも発売された。
夢のSWATCHよ、再び、なるか・・・。
(2014/12/22  570,621)



(4つのキーワード、『51、17、1、100』の意味とは ~)


Swatchがクォーツ時計を発表したのが1983年。当時のクォーツは51個の部品から成っていた。
Swatchは今回、同じく51個の部品で自動巻き時計を新たに作成することに成功した。
一説によれば人間の手を介さない完全オートメーション生産された時計とも言われるが、果たしてその真偽はどうであろうか。しかし筆者の興味はそこではなく、ETAの延長線上にあった従来のSwatchオートマチック機械が、今回どの様に生まれ変わるのかに尽きる。

その鍵を握るのが4つのキーワードである。
即ち、51個のパーツ、17の特許出願中、1個しか使用していないネジ、そして100%スイスメイド、である。
特許とスイスメイドはさておき、時計に詳しい人であれば51個のパーツと1本のネジ、と言うキャッチコピーは余りに刺激的である。ローター中央に見えるやや大径のネジ、この1本しかこの時計ではネジが使用されていないのである。機械式キャリバーは、部品をネジによって連結し、積み上げて作成されることを考えれば驚愕に値する。つまりネジの代わりに何が使われるかを考えると、あながちこの時計には人間の手がかからないという噂も真実味を帯びて来るではないか。
確かにネジの代わりに溶接跡のようなリベット調の留め具が散見される。伝統的な機械式キャリバーを見慣れた立場からは、まさに異様な光景であるのだ。

そして、右写真からも明らかのようにテンプ受けは地板と連結・一体化され、自動巻きローターには扇型タイプではなく、360度の透明ディスクが利用されている。その動きは丸で『ペリフェラルローター』と錯覚させる『ミステリーローター』である。機械式キャリバーをローターで隠すことなく見せる工夫で辿り着いたデザインであろうが、このセンスは流石。デザイン的にも、技術的にも『世界初の快挙』ではあるまいか。
しかし問題は、『だから、どうした?』、にあると考えている。

***

今や、1990年代初頭の熱狂的なSwatchブームは過ぎ去り、この種廉価のファッション時計は世間に溢れている。中でもSwatchはそのファッションセンスと毎シーズンに発表する豊富な新作モデルが最大の武器。そこにこの時点で、新しい自動巻きキャリバー開発・搭載と言っても、だから何なの?と言うのが特に時計離れが進む若者世代における反応ではあるまいか。一部の熱烈な時計マニア、Swatchマニアは別として、一般的にはSISTEM51のような時計はデザイン面でも、機械式でも既に多くの競合品が存在する訳であり、商品としての訴求力が果たしてどこまで強烈であるのかは少々疑問に感じる。

筆者は、勿論、このSISTEM51を待ち望んで入手したのであるが、来年のApple Watchこと林檎時計の登場を前に、いま一つSISTEM51は盛り上がりと話題性、インパクトに欠けるのではないかと言うのが、甚だ老婆心ながらの感想である。

***

それはさておき、この透明の全周式ローターは実に良く出来ている。
透明性と耐久性を考慮するとポリカーボネート製ではないかと想像するが、クルクルと実によく回転する。
放射状にプリントされた縞柄デザインが、丸で年末宝くじ抽選シーンの矢を放つターゲット板を見るようで、実に楽しい。90日間のパワーリザーブや新素材(詳細不明)をフル活用したであろうコストダウンの粋も素晴らしいのだが、筆者にとってはこのローターデザインとシースルーバックのデザインが最大の魅力であるのだ。






(5つのモジュールの不思議 ~)

➡右写真がその5つのモジュールに相当する。
各モジュールをどのように生産しているのか、オートメーション方式でロボットによる組み立てであるのか興味は尽きない。そしてこの写真から気付くのが一番下にあるモジュールの巨大な香箱。ゼンマイがデカイのである。90時間パワーリザーブの秘密はこの巨大なる香箱、つまり通常のゼンマイよりも可也長くて幅もあるであろう特殊なゼンマイの存在が一際目を引く。同じSwatchグループのTISSOTからも既に90時間パワーリザーブ(Powermatic80)が登場しているが、そうした最近の技術を惜しまず投入したのがこのSISTEM51である。

現代の機械式キャリバーに求められる特徴は色々あるが、筆者の考える重要な基準とは:
①ロングパワーリザーブ(3日以上)
②精度の観点からハイビートであること
③メンテナンスフリーに近い構造であること
の3点である。フリースプラングやチラネジ付きの機械は高級キャリバーの話であるが、一方で現代技術の加工精度をもってすれば最早、フリースプラングも不要。その実用精度は数々のETAキャリバーで証明済である。であれば、現代社会で求められる機械式(自動巻き)キャリバーへの要求とは、とどのつまり上記3点に集約されると考えるのだ。

その他にも恐らくこのSISTEM51には実験的に(若しくはその結果として)、従来の汎用キャリバーでは使用されていない新素材も多用されているものと推測する。その詳細は今後、徐々に明らかになると思うが、手作業を基盤とする高級時計の対極に位置するSISTEM51は、どのようにして価格と品質・効率面のバランスを確立したのか。恐らく17の出願特許の中にその答えが隠されているのであろう。








(2014年5月30日、銀座ハイエックセンターで日本国内販売がスタート ~)

←左写真は写真の通り、現時点でSISTEM51は4種類のモデルがある。
来年2015年にかけて、どのような後継モデルを投入するのかしないのか、も興味深い。
SISTEM51の文字盤デザインは、星座を連想させるのだが、Swatch公式HPにその説明があるので以下、引用する:

『宇宙の夜の色であり、プレアデス星団の熱い青色星からこの美しく青い地球へのメッセージでもあります。黒々とした文字盤の中心を取り囲むのは、19石のルビーのうちの6石を示す6つの赤い点で、内蔵されるムーブメントから赤い信号を発します。細い白色の線は、散在する 星のような白いドットをつないで私たちがたどる進路をなぞり、宇宙の旅を案内する地図となっています。12個の白いドットは、明るい透明の青いケースに組み込まれた黒いベゼルの上に時間を示しています。 そして、背面には見事な光景を見ることができます――深い青と黒の星形の放射パターンが、中央のネジからSISTEM51という並外れた機械式ムーブメントのモーターであるローターに向かって広がっています。 』

想像像通り、星座を模したデザインのようだが、このバーハンズも周囲の秒INDEXデザインも中々良い塩梅だろう。強いて苦言を言えば、青色の秒針がやや短い、デイト表示窓が小さいことであるが、この辺は今後出てくるであろう新作モデルに改善を期待している。



***

さて、2013年BASELで発表されたSISTEM51であるが、市販までにこれ程遅れが生じた理由は何であろうか。本来、2014年年末の発売出会ったのだが、結局2014年6月にまで遅れた。我がロンドンでも2014年8月にようやく発売となったのだが、この遅延は大きく興味を削がれた形となる。結局、発売されてもSISTEM51は商品不足に陥ることも無く、静かな滑り出しを見せたことになる。
英国内ではOxford Streetにある店舗のみでの販売であるが、➡右写真の通り銀座と同じモチーフで店内にDisplayされている。何度か店舗内で客の反応を観察したが、顧客層にはSISTEM51だからといって特段の熱も興味も示されていないようなのがやや気になる。

2015年の林檎時計の登場を前に、さて、スイス資本の巨大グループSwatch Groupは、このSISTEM51をどのように料理・展開させようとしているのか、筆者の興味と関心は既にネクストステージに移っている。
(2014/12/22 570,621)






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