随筆シリーズ(21)

『名刺の流儀〜正しい名刺入れについての提言』




IT時代の現代においても、伝統的な名刺交換はビジネスマナーとして不可避の儀式。
名刺の扱いについてはマナー本、その他で十分に語られているが
肝心の『名刺入れ』について、経験上、満足行く製品に中々出会ったことがない。
今回は、特に『名刺入れメーカーへの提言』も兼ねて記すことにする。(2010/03/13)




(間違いだらけの『名刺入れの構造』について〜)

まず、名刺の紙のサイズは、日本国内では9号(55x91mm)が基本である。
国際社会においてもまず、このサイズが中心にあるので、名刺といえば9号サイズを念頭に話を進める。

言わずもがなであるが、名刺を財布や定期入れから出す人は失格である。
名刺は専用の名刺入れから出すこと。これはビジネスマナーの基本のキ。

昨今、複合ケースと称して、パスケース(定期入れ)と合体式のものがあるが、これもルール違反である。
名刺は極力、『薄手で品の良い本革製』の名刺入れから出すのがスマートだ。

●問題点の指摘1:
市販されている名刺入れの多くに⇒右写真のようなマチがある。
しかし、名刺入れ自体の横幅が狭いので、マチと名刺が互いに干渉してしまい、すんなりと名刺入れに収まらない。写真の場合、名刺が斜めでないと収納できないことになる。

つまり名刺入れの横幅が狭すぎるのだ。狭いと窮屈になり、結果として名刺の出し入れにも支障を来たす。作り手がこの点を全く理解していない証拠である。
9号サイズが何とか入れが良い、との単純な考えが全てを台無しにしている。
一言で言えば、実用を度外視した設計そのものに問題の根源があるのだ。



●問題点の指摘2:
名刺入れは万能ではない。用途、容量によって使い分けるべきだろう。
少なくも、2種類を持つ(=メーカーとして製作する)必要がある。
@1〜10枚程度を収納する、薄型タイプ。
A10枚以上の大量枚数を収納する厚みあるタイプ。


パーティーでもない限り、10枚以上の名刺交換を一度に行うことは稀だろう。
そうであれば、極力スマートに名刺交換を行うことが肝要であり、通常は@で十分。補充は適宜行えばよい。
上記問題点2つは簡単のようであるが、これを満たす名刺入れはまず、市中に存在しないと言って過言でない。
筆者実感では9割以上の市販製品が不合格、であるのだから、実に嘆かわしい現状である。
雑誌でも目先のスタイルばかりを追う軽薄な特集記事ばかりで、実際の使い勝手を考慮した記事は殆ど無い。

以下、実際の愛用品を例にして、在るべき名刺入れの理想像について言及する。




←左写真: ゴールドファイルGold Pfeil(GP)の名刺入れ(独製)。

これは筆者が理想とする名刺入れ。
収納枚数は10枚が限度。
横幅12cm。名刺の横幅より3cmも大きい。
加えて開口部両脇には12mmのスリットがある為、名刺の出し入れは容易。裏面にはポケットが一つあるので、交換した名刺も収納できる。

”Simple is the best”を地で行く理想形。

黒カーフ製であり、写真の通りゴールデン・アローのGPマークがワンポイントで付く。ステッチはカッパー(橙色)系であり、極めて上質なデザイン。一枚革製なので薄く、スーツ胸元ポケットにも無理なく納まる
愛用して15年程にもなるが、今は廃盤であるのが非常に惜しい。








←左写真: イル・ビゾンテIl Bisonteの型押し牛革製(伊製)。

こちらは開封タイプで一番多いモデル。
クロコ調の型押しデザインで、ややラフな雰囲気ながらも十分、実用に耐える。名刺収納部にマチがあるが、横に広がるので冒頭写真のようにマチが名刺と干渉し合うことも無い。
20枚程度は楽に収納できるので、GPと合わせてセットで使用することが多い。


小分けのポケットが2つ。
一枚革なので裏面には革のケバがそのまま残る。
これが適度な滑り止め効果をもたらす。








↓下写真: セレクトショップのTomorrow Landが特注した”MAITRESSE DE MAISON”とのコラボ・モデル。

色とデザインで遊ぶなら、エンベロップ・モデルのゴートスキン製。
発色とエンベロップ(=封筒)型のデザインが垢抜けている。
収納枚数は10枚以下。ポケットは無い。
横幅が10.8mmとやや小さめなのが難点。こうした薄手の名刺入れでも横幅は12cmが必要だ。

一枚革だが、裏面もなめしてあり、橙色に染色されているのがお洒落だ。
この程度の色合いであれば、ビジネス場面では何ら問題ないのだが、若い方(30歳台まで)にはやはり黒茶系のダークカラーを薦める。
色で遊ぶのは、仕事の中身が一人前になってからだろう。

このエンベロップ(封筒)型であるが、店頭で”エンベロップ”と言っても店員さんが理解出来ない場合が多い。
勉強不足と知識不足が否めないが、このデザインはまだまだ少ないという証でもある。























↓下写真: 伊東屋オリジナルの牛革製モデル:

一番スタンダードで安心感あるスタンダードな名刺入れだ。
IL BISONTE同様に、小さなポケットが2つある。

名刺入れ部分にマチはあるが、浅いマチなので名刺と干渉しない。
ただ、マチが薄めに仕上げているので、名刺の出し入れがややキツメで不便を感じる。
もう少し、名刺入れ部分の深さを浅めにして、名刺をつかみ易いカッティングにすると尚良い。この点が残念。

フラップ部分コーナー2箇所には補強も兼ねた金属製の補強金具がアクセントとなる。
牛革製のスムースレザーが大変上品な処理となる。







↓”No.No.Yes”による『所作』の名刺入れ:

日本が世界に誇る、日本の美を名刺入れに導入した傑作品。
下の写真2枚からも分かるように、伝統の袱紗(ふくさ)をモチーフにした作りがユニーク。
これは間違いなく外国製品では在り得ない日本独自のデザインである。
独自の植物性染料は革の内部にまで染み込み、折りたたんでも革のなめしの柔らかさも加わり、左程厚みを感じさせない。
一枚革を折り畳んで、このような名刺入れを作るという発想にも驚く。
名刺を取り出す儀式を楽しむかのように、そして名刺への想いを込めつつ一枚一枚取り出す仕草は他の名刺入れでは決して味わえない。収容枚数も20枚くらいは楽に入る。
上品、かつ見た目のインパクトも絶大であるのが『所作』である。

因みに横幅サイズは12cm。上述Gold Pheilと全く同じというところも『納得』である。






(カードケースを名刺入れに使うことは御法度〜)

カードケースを名刺入れ代わりに使うことは避けたい。
理由は、以下の2点:
@ そもそも名刺用ではないので、何よりも取り出しが不便
A 収容枚数もせいぜい、2〜3枚が限度で実用性に欠ける

⇒右写真:
上がGUCCIのカードケース、下がHIROAN(広庵)の名刺入れ。
両者ともサイズは略、同じ。HIROANの方が革が柔らかいので名刺の出し入れは比較的容易。それでも横幅が狭すぎる(11cm弱)。
あと1cm広く、そして両側に切り込みスリット1cmが入れば理想的な名刺入れになるのだが、残念である。

GUCCIは完全にカードケース専用。
名刺を入れるのは不適である。

こうして考えると理想の名刺入れとはこうなる:
@ 横幅12cm
A 薄いポケット式であれば左右両側に1cmのスリットを入れること
B 開閉式のマチがあるタイプはマチ部分に名刺が触れないようにデザイン処理をすること。


この3点さえ押さえれば、立派な名刺入れが作れるのであるが、是非ともメーカー側にはユーザーの使い勝手を考慮した正しい製品を作って頂きたい。(2010/03/13)




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