考察シリーズ M

『傘の流儀』




多雨の街、ロンドン。高温高湿、加えて長雨の街、東京。
両都市での必需品と言えば共に『傘』。
刀を差す、と同様に傘も差すと表現する。
正統な傘には鋭利なスタイルを求めたい。
今回は『時計オヤジ』の『傘オヤジ哲学』について言及してみる。




(雨天で傘を差さない英国人〜) 

ロンドンで雨の日を見るのは面白い。
まさに日本との文化の違い、雨に対する対応の違いを実感できるからだ。
一言で言えば、傘を差す人が圧倒的に少ない。日本であれば雨が降る中で、堂々と傘なしで歩く人は少ない。ところがロンドンにいると、極端に言えば半分位の人が傘を差さずに濡れて歩くのだ。中には傘の代わりに防水式のジャケットやパーカで凌ぐ人もいる。更には、ただただ濡れて歩く人もいる。それもスーツ姿でだ。流石に土砂降りの中ではそうする人は少ないが、それでも多くの人が濡れることを厭わない。丸で自然に逆らわず、あるがままを受け入れるようにして雨の中で歩く光景を目の当たりにすると、正直、理解に苦しむ。
英国紳士だからFOXの傘で堂々と、というような光景は現実の世界では稀有である。傘を差す多くの人が折りたたみ式傘を利用している。何故なら、何時雨が降るかわからぬロンドンでは、傘の携帯が必須であるからだ。長くて仰々しいFOX式の傘は実用上、嫌われることが多い。これは経験からの実感でもある。
因みにロンドンで透明ビニール傘を見かけることはまず無い。


(お気に入りの4本についての共通点〜)

『傘オヤジ』のお気に入りは右写真の4本。
共通点は、全て傘カバー付であること。傘カバーがなければ買わない。
携帯時にすっきりとした傘のスリムな姿を好むからだ。
それが傘に対するコダワリの最低ラインである。

手元、ハンドルの素材は天然木が一番だ。手にした質感からは表面がスムース仕上げの方が馴染みやすい。それでも寒竹のように凹凸ある素材も別な味がある。

(⇒右写真)ハンドルの素材。右から、マラッカ藤(LANCEL)、冬の地下茎を利用した寒竹、えごの木(バーバリー)、ウレタン塗りの楓を意識した合成樹脂素材(ギブス&ホークス)。この4本がヘビーローテーション、筆者愛用の逸品。どれもが購入後10年を軽く超えている。






(傘の長さは親骨60〜65cmがベスト〜)


長らく親骨65cmに拘ってきたが、現在の結論は、親骨60〜65cmがベスト。
これが70cm超になると可也長めとなり、使用せずに手にした時のバランスが少々悪い。使い手の身長次第でバランスは異なるが、多くの傘が60cmサイズである。一般的に65cm以上がロングサイズ。その種類は可也限定されるので、直感で気に入る傘と出会ったら即買すべきだ。ジャンプ傘ではなく、手動で開閉するタイプがより本格派である。

(←左写真: 
上から親骨60cmバーバリー、65cmギブス&ホークス、65cmランセル、70cm寒竹ハンドル。これだけ長さに差が出る。広げた時の面積は更に大きな違いとなる。雨の強弱に応じて、傘の広さで選択することも多い。)






(⇒右写真: 愛用の1本。ランセルブランドの65cm傘について〜)

非常にバランスが良い傘としてお気に入りの1本がこれ。
まず、ハンドルのマラッカ藤、そして中棒から先端の石付き部分までが一本の木製(樫)であること。そして、素材地は防水性能が優秀な国産ポリエステルで、柄がペイズリーで美しいこと。海外品でここまで凝る傘は稀有であろう。国産品ゆえに成せる業である。
親骨65cmという絶妙なサイズは自分にとってベストだ。
こうした傘はブランド物であろうと、老舗物であろうとも左程問題ではない。
要は、傘の基本・ツボを押さえていることが重要なのだ。





(←左写真: 全体に濃いブルー調の地にペイズリー柄が映える〜)
ランセルのL字が全体に散りばめられているのも如何にもブランド物の傘であるが、嫌味は無い。極めて自然にペイズリーに溶け込んでいるのがお洒落。黒や青の単色も良いが、雨の日だからこそやや明るめの色彩を楽しむ余裕が欲しい。
尚、手元のハンドル部分にはゴム式の玉留を装着しているが、東急ハンズでも売っているパーツを流用しているものだ。傘は広げても閉じた時も、その容姿にコダワリを持ちたいもの。









傘の寿命は意外と長い。靴や時計同様に、ローテーションすることで寿命は格段に延びる。
傘は毎日使うものではないから寿命が延びるのは自明の理だ。
そうであれば尚更、傘選びには神経を使いたい。そして自分のスタイルやファッションに応じてデザインも選び分けると面白い。
基準は色々あるだろうが、分かり易いのはその値段。国産であれば1万円以上の傘を選ぶことだ。この価格帯であれば、素材も総じて厳選されている。
現代であればデザインも豊富な本格傘が手に入る価格帯でもある。
老舗傘ブランドでなくとも、老舗ファッションブランドにも国産品であれば良傘は多い。
下手に英国品に拘るよりは遥かに良い傘に巡り会うことが出来るのが日本ブランドの強み。
親骨は8本が標準だが、16本などの特殊構造も宜しい。但し、重量が500グラムを超えるとやや重過ぎる。

傘選びは靴や時計ほどに難しく無いので、あとは使い手のやる気次第。
傘はその人のコダワリ度合いが一目で分かるバロメーターでもあるのだ。(2008/08/31)



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